『アスラン=ザラ様、お着きです』
下女が左右に松襖を開ける。
広い室内に足を踏み入れると襖は閉じられ、中には―
「―『月穂』?」
呼ばれた瞬間細い肩がぴくりと揺れる。
華奢な躯に幾重にも重ねられた彩色豊かな着物。
三つ指を付き頭を下げている為に見える白い項に身体が震えた。
『月穂』の前に片膝を付き肩に触れた。
『娼』特有の崩した着付け。
むき出しの肩は触れると壊れそうな程に頼りない。
「…客を採るのは初めてらしいね…怖い?」
「‥‥‥。」
「…とりあえず、顔を上げてくれないか」
躊躇いがちに上げられた顔に罹る銀糸から覘くのは深い深い海の色。
その色は怯えと、警戒と―
「…俺はアスラン。アスラン=ザラだ。君は?」
「…?」
「名前は?」
蒼眸が見開かれ、訝しげに此方を見る。
それは当たり前だが。
先程確かに『月穂』と呼んだのに?
だが、俺が知りたいのは『娼』としての名ではなくて―
それが判ったのか今度は目を細め見据える。
「…そんな事を聞いて如何する」
喋ってくれた事に満足しつつ言葉を続ける。
綺麗な顔に似合いすぎる強気な口調。
疑問も一つ増えた。
「…如何もしないさ。今夜君を如何する気も無い…」
「…え?」
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