「・・・・・・イザーク・・・・?」
「あ、お目覚めになりました?」
「え?…あ、あぁ…えっと…」
「華桜閣の娼方のお世話係のミリアリアと申します。
倒れられたのは憶えてらっしゃいますか?」
「倒れ…?ああ、そうか…ありがとう」
「それにしてもあんな凄い熱で通われるなんて余程入れ込んでらっしゃるんですね」
そう云った客は珍しくもないのだろう。少女は明るく笑いながら言う
つられた笑いは皮肉られたかのような笑いしか出なかったけれど不快な会話ではない。
「はは、そうだね・・・・・・そういえばイザ…月穂は?」
「月穂さんはお休みになられてると思います。もう日も高いですし。
…旦那様には重々礼を、と私に」
「そう…じゃあ、帰るよ。お世話になったね」
「いえ、ではお大事に」
まるで向日葵のようだな、と思った
少女の笑顔は日の下に似合うだろうと。
けれど自分が会いたいのは向日葵ではなく
月夜の許、水面に浮かぶ睡蓮
その姿を瞼の裏に映し
言葉にしない約束を
「…心配、かけちゃったかもな」
酷く霞みかかった記憶の中で彼が問いかけていた気がする
「如何して」と―
泣きそうに歪められた表情は、熱に浮かされた故の幻だろうか?
少し低い体温の感触さえも
灯りの消えた店。
そこだけが夜の抜けきらぬかのように薄暗い部屋の中で
夜から朝へと通りを行く想い人の後ろ姿。
それを見送る少年の泪は銀糸に隠された。
ただ焦がれ待つは
月の三度巡った夜
ただ焦がれ願うは
月と夜の如く交わらんこと
ただ焦がれ想うは
朝と夜の如く擦れ違い触れ合えぬ者
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