降って


降って 


積もればいい。



いつかの約束を掻き消すように









「お久しぶり…ですね、ラクス嬢にはお変わりありませんでしたか?」


挨拶の一環であることを承知の彼女も、社交辞令で返す。


「お久しぶりですわね。何も変わりありませんわ。」


白々しい婚約者ごっこ。
ラクスも俺も想う相手は別で
思うことは一緒。




―この意味の無い婚約など―





「…時にアスラン、最近娼館にお通いだそうですわね。ここは私、文句を言うべきところでしょうか?」


くすくすと悪戯っぽく笑う彼女。
『婚約者』としての責務なのか、と。

茶化すラクスにつられて笑いながら、紅茶を一口。


「そうですね…貴女が一番最初に言うべきかもしれませんが、生憎父に先を越されました」

「まぁ。では私の出番はありませんのね」

「俺にとってはどちらでも辛いですけどね」

「そうでしょうね、浮気者様?」


婚約者らしからぬ談笑。

不意に、ラクスの表情が変わった。






「…お相手は、其方にいらっしゃいますの?」


―想う相手は


「…はい。分かりますか?」


「だって、全然表情が違ってらっしゃいますわ」


「え?」


「大切なものを見つけられた方は、矢張り変わります」


「そういうものでしょうか」


「…それでも、逢うこともままならないのでしょうね」


「たとえ、この婚約が解消できても…彼と一緒になることは難しいのも解っています」


「でしょうね…私に何か、お力添え出来ることはございませんか?」


「ありがとう。でも、互いにこの婚約を完遂させないことには何ともなりませんね」


「ええ…如何してなのでしょうね」



本当に想う相手と巡り会えた。

それはどれだけ幸福なことだろう。


それなのに如何して、こんなにも壁は強固なのだろう。










また来ます、と言えば
楽しみにしています、と返す。

いつもの決まった台詞で別れて、クライン邸を後にした。







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